「お水美味しい?」はコミュニケーションエラー【Inori Minase LIVE TOUR 2023 SCRAP ART 感想レポート】
overture
違うんだ、いのりちゃん…
僕はもう、"考えたくない"んだよ…
本当はただただ、君を見てヘラヘラ笑って、かわいいねってデヘデヘして、「僕らだけの鼓動」で自分の心の臓をえぐり取って、サイリウムみたいに振り回したいだけなんだよ…
「僕らだけの鼓動」、みんな、聴いてくれよな。
コミュ障はつらいよ
「Inori Minase LIVE TOUR 2023 SCRAP ART」が千秋楽を迎えた。
たぶん、このツアーで僕は彼女に3回は胸を刺されたと思う。よく見るとその矛先は、ミトがアスナに贈ったレイピアとは違ってとても丸くて柔らかいのに、グサグサ来やがる。
1回目は、愛知公演でのMC中のオタクからの「お水美味しい?」に対するアンサー。
「そういうのは嫌です。美味しくないものをゴクゴク飲まないでしょ。」と釘を刺して、「また荒れちゃう」と、"いのり流の予防線"を張る。いのりちゃんは自虐風の予防線をしょっちゅう張る。彼女の性格がとても出ていてめちゃくちゃ好きなのだが、一方で「そんなに気にしなくていいよ」とどうしても言いたくなってしまう。でもほら、こうやってブログに書くやつがいるから荒れる要因になるんだよね。ごめん。
今までも尖った面をたくさん見せてくれている彼女だが、このツアーでの「お水美味しい?」に対する答えは革命的だった。彼女が「お水美味しい?」を疎ましく思っているのは確かだが、その存在自体を真っ向から否定しているわけではない。要するにこれは、オタクと演者間に発生した圧倒的なコミュニケーションエラーなのである。その言葉を欲していない本人に対して、「お水美味しい?」と脳死で聞くのは、言葉を包み隠さずいえば、コミュ障大爆発なのだ。
てか、水瀬いのりを見てたら分かるやろ。「お水美味しい?」は本人が明言する通り、全くもって水瀬いのりらしくない。デカい声で彼女に聞いて、一体どんな返事を期待しているというのか。超ドMで罵られたい欲があるのならまだ分かるが、叫んだオタクは恐らくパブロフの犬なのだろう。
もちろん、これが別のアイドルの現場だったらまた話は変わってくる。「お水美味しい?」がコミュニケーションとしてちゃんと成立している現場は実際、多数存在する。なので、「お水美味しい?」自体を否定しているわけではないし、水瀬いのり本人もそうだと思う。
彼女は「お水美味しい?」を「ライブの常套句」と形容したが、演者の衣装を全方位から見るためにオタクが叫ぶ「回ってー!」もライブの常套句だ。しかし、これに関しては彼女はすんなり受け入れているどころか、キーボードの小畑貴裕(おばちゃん)との連携がとにかく向上しており、さらには「回ってー!」の合図(※)までオタクと一緒に決めるに至った。
(※)胸の前でサイリウムをゆっくりと回しながら(UOグルグルと同じ動き)、腰も左右に振るというコミカルな合図に決定。UOグルグルは苦手な人もいるだろうからとスローにさせたいのりちゃん、配慮の鬼。さすが元UO使い。
同じ常套句でも、「回ってー!」は総合的に見て、水瀬いのりらしさのある、彼女の望むコミュニケーションの取り方といえる。
(いや本当はいのりちゃんは昔は回るのも嫌で今もそこまで好きじゃないというより苦手なんだけどせっかく作ってもらった可愛い衣装はちゃんと見せたいし何よりオタクが喜ぶことはなんだかんだでやりたいしじゃあいのり色を強めたエンタメ性を出して自分が極力恥ずかしくならない感じで回れるようにしようみたいな考えはあったんじゃないかという推測はつくわけですよちなクッソ早口ねここ)
「お水美味しい?」に関して散々ボロクソ書いたが、叫んだオタクやこのフレーズを断罪したいわけでは全くない。むしろこの出来事によって、水瀬いのりがオタクと積極的にコミュニケーションを図ろうとしていることが明確となったように思う。
オタクへの解像度の高さ
2回目の"刺し"は、神奈川公演初日の「私のファンには思慮深い人が多い」発言だ(実際は幕間映像内での発言)。
オタクとコミュニケーションを取ることを明確にし始めたいのりちゃんが突きつけてきたあまりにも強烈な一撃。
「私の言葉や曲を受け止めて、自分なりに解釈して提示してくれる人が多い。」
「みんながとてもよく向き合ってくれて、私も向き合いすぎることがあるので、お互いに無理せずリラックスして向き合っていけたら。」
みたいなことを言っていたと思う。
おい。水瀬いのりよ。エゴサしすぎやろ!
確かにラジオでハッシュタグ追ってる言ってたしだいぶ見てるとは思ってたけど、それにしたってオタクへの解像度が高くなりすぎだろ!
いのりちゃんは本当に優しい。彼女自身がダウナー系ということもあるが、それにしたって何度も「無理せず」とか「自分のペースで」とか言ってくれる。いのりママぁ…いのりママぁ…
けどね?君が君である限り、止まらないんや。止められないんや。思考が。脳みそが。だってあなたが一番いろいろ考えて考えて考えすぎて、そしてその努力の結晶が目の前に立っているのだから。あなたに感銘を受けているのにどうやって考えないでいられようか。願わくば考えずにいたい。でもそれは僕には難しいみたい。でも安心して。あなたが心配しているような無理をしてるわけでもなんでもないから。むしろどんどん脳の活性化に繋がるいい機会だしあたしが老人になっても脳年齢の維持のためにずーっと活動続けてね?絶対だからね?互いに縛ってこ。むしろ無理して縛ってこ!
ところで、僕の長いオタク人生で一つ、確信を持って言えることが1つある。
「オタクは演者を映す鏡」。
これは、逆も然り。
いのりちゃんがオタクの方を向いてたくさん考え続けてくれる限り、それに向き合って考える人は増え続けるだろう。それがオタクと演者の関係だって、胸を張っていえる。
ちなみに「考える」ってのは言語化するってことだけじゃない。たとえば、いのりちゃんとコミュニケーションを取るだけでも考えていることになる。だって人と喋るとき、何も考えずに喋ってる人なんてそういないでしょ。「お水美味しい?」っていのりちゃんに投げかける人は何も考えずに喋ってると思うけどな!!(お水美味しいに親でも殺されたんか?)
履歴書に書く内容が増えた
3回目の一刺しは、とどめの一撃だった。神奈川公演初日の「ファンの皆さんも演者だった」発言が代表的なものだ(これに類する発言は今ツアー、多数あった)。
いよいよである。演者になってしまった。自分のWikipedia作って出演欄にSCRAP ARTって書いてええか?
まさに、いのりちゃんにとってのライブツアーが、その場にいる全員が同じ方向を向いて、その空間を楽しむ場になったことを端的に表す一言だった。
今までずっと、1人で頑張ってきたんだね。そこから少しずつ周りも見えてきて、メイクさんやいのりバンドとの話もますます増えていって、等身大の自分をさらけ出して、怯えて自分にしか向けることができなかったベクトルを、オタクの方にもたくさん注いでくれるようになった。1stライブからもうすぐ6年。やっといのりちゃんに追いついたよ。勇気を持って立ち止まってくれてありがとね。ん?どしたん?話聞こか?
いつか、こうなる日は来るんだろうなって分かってはいたんだけど、それがこのツアーだとは思ってもいなかった。
こっちもね、一応昔から思考の伏線は張ってたのよ。
あなたが大人になった話と
オタクはまだ信頼されてないかもみたいな話。
まだまだ、オタクは水瀬いのりに信用されていないのかもしれない。【Inori Minase LIVE TOUR 2022 glow 感想レポート】
これ結構すごいな。自画自賛。マジで伏線みたいになってね?いや、こじつけてるだけか!
水瀬いのりのライブの弱点
水瀬いのりのライブの弱点があるとすれば、それはバンドとの距離感だとずっと思っていた。これまではあまりにもよそよそしすぎて、いのりちゃんが1人で全部背負っている感じがどうしても出ていた。同じレーベルの宮野真守のライブに通っている身からすると、そこがけっこうしんどかった(宮野はバンドメンバーと一緒にライブのためにコント映像を撮って流してたりするくらい仲がいい)。
神奈川公演初日、ギターの伊平友樹(イッフィーさん)と目が合わないといういのりさん。「デビュー当時の私を見てるみたい」と年上のギタリストに言ってのける。反応の悪い彼に対して「あとでお説教だからね!」と笑いを取りながら伝えるいのりさん。なあ…こんないのり、見たことないんだが…
「いのりバンドは個性的で面白い」、「いのりバンドをラジオのゲストに呼びたい」
今回のツアーでは、そんな言葉が次々と出てくる。
「"チームいのり"は、弱音を吐ける場所。しんどい時にしんどいと言える場所。」
千秋楽では涙を流しながら、いのりバンドを始めとするライブチームのメンバーに感謝する彼女。これまでの過程を窺い知ることはできないが、去年のglowツアー以降、あるいは、それより少し前からかもしれないが、劇的に関係値が向上しているようだった。そしてそれはたぶん、彼女が自分の殻を壊せるようになったからだろう。
やっぱり、仲のいいチームを見るのは純粋に楽しい。ついに弱点を克服した水瀬いのりのライブツアーはほぼ無敵になった。次のライブが楽しみで仕方ない(ただし、幕間映像の企画だけはもう少し頑張ってくれ…)。
水瀬いのりにぴあアリーナMMは似合わない?
ライブが1公演終わるたびに更新されるファンクラブのブログ。前回のツアーまでは複数公演分をまとめて更新してたと思う。いのりバンドとの距離を縮めた彼女は、確実に、オタクにも急接近し始めている。
そのきっかけの一つとして、若いオタクの存在が大きいと感じる。今のいのり現場、いのりちゃんより年下の10代、20代前半が本当にマジでめちゃくちゃ多い勘弁してくれ。ラジオを聴いていても彼らからのお便りが増えている。そういう層からの、たとえば「勉強頑張れます!」とか「仕事頑張れます!」とか真っ直ぐで純直な声をたくさん浴びるうちに、いのりちゃんは自然と、皆のお姉ちゃんになっていってるんじゃないかと思える。レーベルメイトの岡咲美保など、現場でもいのりちゃんが堂々と先輩を名乗れる(?)後輩が増え、どんどんと大人力が増していく弊推し。
glowツアーでは、水瀬いのりには横浜アリーナは似合わないと本気で思っていた。今でもその気持ちはあまり変わらない。けれど、どうしましょう、ぴあアリーナMM、かなり似合うなって思ってしまった。何万人もの人の前に立っても彼女らしさをフルパワーに出せるようになってしまっては、似合わないなんて言葉を簡単に出せなくなってしまう。彼女の本質はホール規模。小さいところで、彼女のことを好きなみんなで静かに彼女の歌を聴く。だからこそ、アコースティックライブの開催が死ぬほど嬉しい。でもSCRAP ARTツアーは、1万キャパでも、そこはもう自分のホームにできるということを彼女が確信してくれたライブツアーだったんじゃないかなと思う。オタクも演者だから。彼女を支えるチームだから。みんなが同じ方向を向いているから。そう、いのりちゃん自身が本気で自覚して、言葉にしてくれた。
やれやれ、しゃあねぇな!いのりがそこまで俺たちに求めてくるなら仕方ない!最後まで付き合ってやるよ!いのりはひとまず印鑑持ってきな?んで、ここ押してな。証人は大西あたりでいいだろ。
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ゴーン🔔 ゴーン🔔
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