重度のアニメ・声優オタクが、Mrs. GREEN APPLEのライブに行った話【ARENA SHOW『Utopia』感想レポ】

   

ミセスとの出逢い

年間100本前後のアニメ作品を見ている正真正銘の陰キャアニ豚こと僕が、今をときめくロックバンド「Mrs. GREEN APPLE」にはじめて出逢ったのはテレビアニメ「炎炎ノ消防隊」だった。
コロナ禍からほんの半年前くらい、2019年の7月頃で、CMで聴いたインフェルノがあまりにもカッコ良すぎて衝撃を受け、ずっと頭から離れなかった。
ほどなくして世界中がコロナに飲み込まれ、僕も例外なくテレワークを強いられることになった。
ご存知だろうか。テレワークとSpotifyの相性は抜群で、一日中音楽を聴きながら仕事ができる環境を手に入れた僕は、狂ったように音楽を聞き漁った。その中で一番再生数が多かったアーティストは間違いなくミセスで、2位に大差をつけての再生回数であったことに疑いはない。
ここ最近、若者がポップに使う「インキャ」という言葉とは一緒にして欲しくないくらい、学生時代に陰の者として名を馳せた・・・いやむしろ名を馳せることすらない存在感だった僕は、人間のネガティヴな部分を見せながらも青春ロックを歌い上げるミセスに一瞬で心惹かれ、それはもう深い深い沼へと落ちていった。「青と夏」「点描の唄」「僕のこと」・・・。聴くたびに手に入れられなかった青春が、しかしまるでそこにあったかのようにフラッシュバックしてくる。なるほど、ミセスが学生を中心に人気な理由がとても分かる。聴いていると、とにかく学生に戻りたくなる、というよりもやり直したくなるのがミセスの音楽だった。
そんなミセスは、2019年末に行われた横浜アリーナでの単独ライブ「EDEN no SONO」を最後に、休止(”フェーズ1”完結)してしまった。今までの人生で、おそらく300回以上は様々なライブに足を運んできた僕だが、どんなに望んでもミセスのライブに参加することが叶わなくなり、その反動により貪るように楽曲を聴き、MVを見て、ライブBDも繰り返し見まくった。好きが止まらない。本当にこの2年間半、好きすぎて、けれど生で歌を聴くことができなくて、苦しかった。
そんな想いを抱えて迎えた2022年7月8日。
ミセスの復活ライブ、「Mrs. GREEN APPLE ARENA SHOW “Utopia”」へ足を運んだ。
先に書いておくと、ライブが終わったときの感想は、ネガティブな意味での「勘弁してくれ。」だった。

ジェットコースターのように揺さぶられた2時間半

ああ・・・。
「InsPirATioN」だ・・・。目の前のスクリーンに映像が映し出され、いよいよライブが始まる。
令和最高のoverture。
異論は認めない。認められない。本当に最高なんだよ「InsPirATioN」は。
一瞬の静寂のち、『あぁ どうか』。
どれだけその声を聴きたかったか。「Attitude」という強烈な遺書を叩きつけられる。
お次は「CHEERS」。来ましたよ「CHEERS」。
この曲はね、隣のオタクと「生ぬるいJUICEで乾杯」するための曲ですね。もちろん手持ちのポカリで乾杯しました。皆さんはしましたか?
そこからの「L.P」は落差が激しすぎて、あ、この落差はBDで予習してたやつだ!と頭を振る。ミセスってセトリ、いい意味で雑だと思うんですよね。いや、雑とは違うか。とにかく予想できない。このセトリ順になった理由は一生自分では見つけられないんだろうなと感じる。
MCを挟んで「アボイドノート」。『悪者はどこにもいないだろう』と手を広げる大森くんに本気で洗脳されそうになる。
そして聴きたかった「StaRt」。この曲本当に好き。絶対ライブ映えすると思ってたけど案の定最高に跳んだ。耳にタコができるほど聴いたミセスの楽曲はどこからでも信じられるのだ。それにしてもアウトロのアレンジが好きすぎた、専門用語とか知らないからうまく説明できないけど一拍ごとにドラムス叩きつけてるの本当にやばかった。
道徳の世界から完全に解放されてしまった僕に「道徳と皿」を突きつけてくるミセス。え、この曲やってくれるんですか。
「PRESENT」はまさかの英語と日本語のミックスバージョンで贅沢すぎる!!!
その次は「嘘じゃないよ」。これも本当に好きな楽曲。嘘じゃないよ。ミセスのメロディーってサビへの向かい方が美しすぎるんだよな。
バンド紹介からの、「In the Morning」。この曲を朝に聴くと最高にやる気が出るからマジでオススメ。めちゃくちゃ余談だけど、この曲聴くとテレビアニメ「Dr.STONE」のOP「Good Morning World!」(BURNOUT SYNDROMES)を思い出すんだよな。この曲も大好きなんだけど、1回くらいシレッとOPを「In the Morning」にしてほしかったな。うわ、どうでも良すぎる話だなこれ!
そして10曲目にしてやっと新曲「ブルーアンビエンス(feat. asmi)」を初披露。どんなセトリだよ。asmiちゃん可愛かったね。オタクだから推しジャンしちゃった。可愛い子は正義だね。それにしてもミセス×女性ゲストボーカルの組み合わせはガチで外れがない。大森くんの声が女性ボーカルとの相性良すぎるんだよね。
asmiちゃんが帰った後は「月とアネモネ」。最強のバラード。大好きがすぎるのに。足りない。そう、この曲も女性の声が入るんだけど、歌っていたのは何を隠そう、脱退してしまったドラムの山中綾華さん。頼む、この曲の時だけでいいから戻ってきてくれ・・・。
からの「延々」。いや落差よ。「炎炎ノ消防隊」のゲームの曲。この曲のアウトロ、「インフェルノ」のアレンジ入ってるよね?憎いね。
これ次もしかして「インフェルノ」来るのでは、と思ってたら新曲のバラード「君を知らない」。いや、だから落差よ!どういう意図のセトリなのこれマジで!俺はあまりにも「ミセスを知らない」・・・。
休止期間についてのMCを挟んだ後に、ついに来ました「僕のこと」。この曲についてはもう話すことがありません。聴くしかないんです。全身で聴きました。この曲よくカラオケで歌うんだけど、高音ヤバすぎて『治りきらない傷【も】』の【も】がいつも裏声ギリギリでしか出せないんだけど、大森さんちゃんとライブでもCD音源を口から出しててマジ半端ねえっす。
でもラスサビの「全て僕のこと」が地声だったのが人間アピール感じて逆に良かった。あそこやっぱ裏声やめたほうがいいって!・・・めっちゃ話すことあるやん。
そして美しいピアノソロから「青と夏」。このイントロ。生で聴ける日が来るんだよと、2年半前の自分に伝えてくれ。ラスサビでファンに心の中で歌え!と要求してくる大森くん。BD見てたから知ってるんだけど、この人ファンにめっちゃ歌わせようとしてくるんだよね。もうね、最高。一緒に歌うの大好きマンなので。早く声出ししたいね。
ってか、この流れはもしかして。お馴染みのイントロが流れ出して「インフェルノ」。「3大」人気曲を平気でセトリで並べてくるとか正気か!?とりあえずアドラバーストを放出してきた。高まりすぎてあまり記憶がない。なんかちょっとアレンジしてたよね。安易なアレンジはオタクを殺すのでもっとやれ!やっと回収できた「インフェルノ」。アニメオタクでこの曲を回収できた人ほぼいないよね。全アニオタにマウントをとって生きて行くわ。悔しかったらミセスのライブ来てみな!
休む暇もなく次の曲は「うブ」。さすがに「え、マジ?」ってギャルみたいな甲高い声出たわ。ミセス最強のヘドバン曲。お構いなしにヘドバンしたので首が逝きましたね。どうでもいいけどBD見まくったせいで「行けるか幕張」が自動で脳内再生されるんだが、「行けるかUtopia」言ってくれて無事イった。
果てた僕の耳に届く「ロマンチシズム」。さすがにそろそろ身体壊れちゃうよ・・・。僕らはそうさ、人間さ。ていうかなんか床動いて大森くんがわちゃわちゃしてたの萌えたね。
新曲で一番好きな「ダンスホール」はここで登場。イントロが最強すぎるんだよな。というか大森くんがガチで踊ってる・・・。MVはCGじゃなかった・・・この人、マジもんのエンターテイナーだわ。彼のやりたいことが詰まった楽曲が、あまりにも重い意味を持っている気がしてくる。

ここで、大森くんがミセスが5人体制から3人体制になった話を始める。フェーズ1のこと、フェーズ2のこと。急に頭がクラクラしてきた。
僕が知らないミセスの話だ。その話は当然するんだろうなと思っていたし、この日のライブを通しても少しずつは感じていたのだけど、ここまで正直にちゃんと話をしてくれるんだ。彼らには当然、曲だけではなく、7年間積み上げてきた物語がある。言葉を選びながらも、「変な世界線にいる」、「センシティブ」なんて単語が出てきて、ゾワゾワする。休止期間中、曲だけをひたすら聴いてきた僕には知り得ないミセスの話だ。
彼らにとっての青春ソングだという「Theater」。この曲をどういう気持ちで聴けばいいのか、分からなくなってしまった。
最後の曲は「Part of me」。目を瞑りながら歌う大森くんの瞼の裏側に何が映っているのか、当然、にわかの僕には知る由もなかった。
アンコールを経て、彼らにとって間違いなく大切な曲なのであろう「我逢人」、そして最高の新曲「ニュー・マイ・ノーマル」を歌い上げて、待ちに待ったライブは幕を閉じた。

そんなこんなだから、終わったときの感想は、「勘弁してくれ。」だった。
これ以上ないくらいに心が満たされているのに、それと同時にとても気持ちが悪かった。
この感覚を言葉にするのがあまりにも難しいチャレンジであることは恐らく僕にしか分からない。

自分の中で湧き上がってきたフレーズを列挙してみると、
・一般バンドでこういうライブは勘弁してほしい。
・物語性を感じに来たんじゃないのに。
・ああ、これ、今まで足を運んできた声優のライブみたいだ。

前述した通り極度のアニ豚である僕は、昔からアニメから生まれた声優ユニットのライブに参加したり、あるいは声優自身のソロプロジェクトライブにもよく足を運ぶのだが、ミセスのライブはそれらのライブの感覚に非常に近いものだった。

アニメ・声優コンテンツのライブは「2.5次元ライブ」とも表現されるが、これは完全に持論ではあるが、その魅力は2次元(アニメーション)の完成度と、3次元(声優)のパーソナリティの融合であると思っている。声優がアニメキャラとして振る舞うだけのライブももちろん存在するが、僕が好きになるのは往々にして、声優が意思を持ち、2次元に完璧に寄り添いながらも、3次元がむしろ新しいアニメーション、物語を作っていくような、そういう奇跡みたいな融合が好きで、アニメにハマるのと同じ熱量で3次元にも向き合い、一緒に歩んでいく。
結果、そのコンテンツと向き合うときの思考量は半端なく、負担すら感じることもままあったが、けれどもそういう物語性のあるライブが本当に大好きだった。

ここ最近はその負担の重さも相まって、そういう現場からは離れ、いわゆる僕らオタクが言う「一般バンド」のライブにも参加するようになったのだが、
・Official髭男dism
・サカナクション
・ASIAN KUNG-FU GENERATION
などなど、ミセスのライブではこれらのバンドのライブで感じた気持ちとは丸っ切り違う感情が湧き上がり、まるで実家に強制送還させられたかのようだった。

ぶっちゃけ、個人的に「一般バンド」にパーソナルな物語性は求めておらず、単純に好きな曲が聴きたくて、そのバンドのパーソナリティが好きになるところまでは踏み込まないようにしていたし、踏み込むつもりすらなかったし、そういう向き合い方でいいと思っていた。
だからこそ、「勘弁してくれ。」という言葉につながっていく。

ミセスってこんなにも物語性があるライブをするのか・・・。
いや、むしろそれを含めて「フェーズ2」なのかもしれない。

それを理解するためには、ミセスの曲しか聴いてこなかった僕にはあまりにも濃度が足りなさすぎたし、それを理解するためにどう向き合っていかなければならないのかは、今までのオタク人生で経験として得ていたので、それはもう絶望した。こんなもの、心から共感できないし、共感する資格すらない、その土壌にすら立てていなかった。「Utopia」は、初めてのライブにしては僕にとって残酷すぎたんだと思う。
だって僕は、大森くんの涙を同じ熱量で受け止められない。曲しか知らないのだから。ミセスの新たなる決意に涙することができない。だって曲しか聴いてこなかったのだから。
「サママ・フェスティバル」をリリースしたときの「ミセスじゃない」という一部の声を、僕はリアルタイムで見て、感じていない。彼らは何をもって、ミセスっぽくないと評したのか。あるいは、その声にミセスはどう向き合ったのか。その答えを、ミセスのファンはどう受け止めたのか。なんとなくの憶測でしか分からない。ドラムとベースが脱退するまでの過程を、僕は味わってきていない。そういう予兆はあったのか、何がそうさせたのか。「ダンスホール」での新たな挑戦の意味を、僕は確信めいて語ることはできない。
大森くん曰く「外側と内側、世間の印象と自分が求めるミセスのバランスを上手くとっていくためのエネルギーが足りなくなってしまった。」というが、その変遷を追えていない。大森くんが発した「休みたい」という言葉の意味を、僕はまるで汲み取ってあげられない。だって曲が好きで、Spotifyでひたすらに聴いてきただけなのだから。

「考えるオタク」と「脳死オタク」という呪い

昔、声優ユニットを追っていたときに「考えるオタク」と「脳死オタク」、なんて話をつらつらとTwitterに書き記したことがある。
好きなコンテンツに対してオタクがどう向き合うべきかという話で、「考えるオタク」は推しや好きなコンテンツから与えられたもの全てを鵜呑みにして肯定するのではなく、いちいち立ち止まって考える、ときには解釈違いなんじゃないかとブログやTwitterで物申してみるという、側から見ればクソ面倒くさい厄介オタクにすらなりかねない存在であったが、そんなオタクは少数存在し、しかし一方でその存在は恐ろしいほどにコンテンツを成長させていくのを、実際に目の当たりにしたことがある。嘘でも誇張でもなく、そういう経験をしたのだ。「オタクは演者を映す鏡」という思い上がりも甚だしいような言葉が、しかし本気で通用する現場があった。僕もそんなオタクの1人になりたくて、というか、そういうオタクにならざるを得ない土壌のあるコンテンツに浸っていたので、常に本気で向き合っていたし、その時が人生で1番楽しかったと今でも胸を張って言える。でも、その熱意はずっと続かないし、ツアー全通のために日本全国各地、何十カ所も飛び回ることもあり、如何せんエネルギーを果てしなく使うので、その声優ユニットの解散を持って僕は晴れて「憧れの脳死オタク」になった。それはそれで今もとても楽しいし、あらゆる「好き」にものすごく本気で向き合わなくても良くなったので、すこぶるラクで快適だった。
だから、そんなかつての僕の記憶を掘り起こさんとしてくる「Mrs. GREEN APPLE」を目の前にして、どう向き合えばいいのかまだ悩んでいる。
ミセスは間違いなく、これから先さまざまな物語を魅せてくれるのだろうと確信した。その象徴は「ダンスホール」だと思うが、今回のアルバム、そしてツアーを観るだけで嫌と言うほどそれを感じさせてくれる。
リアルサウンドのインタビューは本当に興味深いことしか書いていない。特に大森くんはどれだけ膨大なことを考えているんだとため息すら出てしまう。

Mrs. GREEN APPLE、活動休止を経て自由になった音楽との向き合い方 フェーズ2開幕で実感しているバンドの核 https://realsound.jp/2022/07/post-1068820.html

こんなにも好きになったバンドの前で、こんなにも物語性のあるミセスの前で、自分は「脳死オタク」のままでいられるのか。いていいのか。当然、いていいんだと思う。けれど、自分の本能がそれを許してくれるのか。
しばらく、その答えは出そうにない。




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