声優さんのイベントに行ったら本気で殺されかけた話。

      2018/04/02

とんでもないイベントに参加してしまいました。
公演中、恐怖で泣きそうになり、終演後、あまりの恐ろしさに鳥肌が止まらない経験をしました。

わぐらぶ限定「TUNAGO東北ろっけんソロイベントツアー」
2018年3月24日(土)岩手・CLUB CHANGE WAVE【Producer:奥野香耶】

声優ユニット「Wake Up, Girls!」の4度目のソロイベントが、2018年3月に東北各地で行われました。
WUGのメンバーの一人である声優・奥野香耶さんは岩手県盛岡市の出身。
今年の彼女のソロイベントは、その盛岡市で開催されました。

各メンバーがそれぞれ自由な発想でイベントの企画を考えるのがWUGのソロイベントの特徴の一つですが、奥野香耶さんのソロイベントの内容は、ざっくり言うと「応援上映」と呼ばれるドラマ作りでした。
300人しか入らないような箱で、奥野香耶さんとオタクが互いに掛け合いを行い、生ドラマを作っていきます。

これは、「ドラマ」です。それは誰もが分かっていました。分かっているはずでした。
奥野香耶さんは「奥野カヤ」役として、観客のオタクは「先輩」役として。
スクリーンに映し出される文字を「先輩」であるオタク達が読み上げ、主演の「奥野カヤ」と掛け合い、恋に落ちていく。
昨年の奥野香耶さんのソロイベントも同じように客席と作り上げる応援上映スタイルだったこともあり、誰もがこれはフィクションと分かっているはずでした。

【昼の部】

---前置き---

前述した通り、ドラマは応援上映形式で作られるため、まずは声出しの練習がありました。
スクリーンに表示されたLINEの画面には「カヤ」との表記があり、彼女とのLINEでのやり取りが始まります。そのLINEに「大好きだよ!」というワードや「奥野香耶さんの好きなところを自由に叫んでください」などアドリブを求めるものが映し出され、それを読み上げることにより物語は進みます。
その中で、「Wake Up, Girls!のメンバーでは誰推しなのか」という絵踏を仕掛ける奥野香耶さん。
この絵踏に関しては"奥野香耶政権"に置いてもはや一般的な政策であるため全く違和感はなく、笑いながら他の推しを叫ぶオタクもチラホラいました。
そんな声を聞いてちょっと拗ねる奥野香耶さんがとても可愛い。
そう、この時はそんな風にしか思っていませんでした。

---前編---

ある日、声優・「奥野カヤ」(役:奥野香耶)は、地元・盛岡でソロのイベントを行うことになった。
学生時代に仲が良かった子たちにも見に来てほしい。そう思った彼女は、LINEで連絡を取り始める。
その中には、高校時代に憧れていた「先輩」(役:オタク)も含まれていた。
LINEでのやり取りで、「先輩」はWake Up, Girls!の存在を知っていて、「奥野カヤ」を推していることも判明した。
先輩のことが好きだった「カヤ」は、イベントに来てくれた「先輩」にだけ向けて投げキッスをする。

イベントを通して気持ちが抑えきれなくなった「カヤ」は、終演後に「先輩」を呼び出し告白する。
「先輩」は、「カヤ」推しだったことはもちろんだが、「今、大人気になり始めている"女性声優"という肩書きを持つ女性と付き合える」という生々しい理由もあって告白に応じる。
こうして「カヤ」と「先輩」である僕らは、晴れて付き合うことになったのである。

前編が終了後、イベント参加者のメールアドレス宛に「カヤ」からメッセージが届く。
添付されていた音声データを開くと、それは東京に戻った「カヤ」からの「先輩」に対するラブラブな気持ちの込められた電話だった。

 

【夜の部】

---後編---

付き合い始めてから「カヤ」と「先輩」は幸せな日々を送っていた。
デート中に将来のことを話し合ったり、間接キスにドキドキしたり。
もちろん、「カヤ」が出演するイベントにも欠かさず通う「先輩」。
しかし、ある時から「カヤ」は悩み始める。
「先輩」は、声優としての「カヤ」が好きなのではないか。
声優・奥野カヤは、自分の綺麗な部分だけを集めたような存在。素の私を見たら、「先輩」は幻滅するだろうか。
けれど、「先輩」には、良いところも悪いところもある、ありのままの「カヤ」を見てほしい。
だから「カヤ」は、「先輩」…「僕」に一つお願いをした。

「もう、私のイベントには来ないでほしい」

「わかった」

僕は確かにこの声で、彼女にそう返事をした。

しかし、僕のカヤへの想いは止められなかった。推しのイベントに参加しないなんて選択肢、オタクにはないのだ。
結局僕は彼女との約束を破って次のイベントに参加してしまう。
ライブが始まり、綺麗な歌声を響かせるカヤだったが、MCの途中に目を見開いて黙りこくってしまう。
そう、僕とカヤの視線が触れ合ってしまったのだ。
僕の姿を見つけ、取り乱しながらも無事にイベントを終えるカヤ。
終演後、僕はカヤに「どうしてイベントに来たのか」と問い詰められる。
「どうしても応援したくて」と僕が必死の言い訳を並べると、なんとかカヤは許してくれたが、
「次のイベントからは絶対に来ないで」と"指切りげんまん"をさせられた。

と、次の瞬間カメラのフラッシュが炊かれ、僕とカヤが二人で会っているところを「週刊岩春」にスクープされてしまう。
週刊誌にすっぱ抜かれたことでカヤの知名度は上がり、逆に仕事が増え忙しくなる一方で、熱愛報道のほとぼりが冷めるまで僕とカヤはしばらく会わないことになった。
僕と会えなくなった上に、忙しさに追われるカヤは次第に疲弊していく。
そしてとうとう、
「先輩に会いたい。」
そんなLINEを僕に送ってきた。
と同時にカヤは、「次に控える盛岡でのソロイベントが終わったら先輩に会おう」と心に決めた。

そんな彼女の決心を知らない僕は、あらぬ憶測を立ててしまう。

これは、カヤからのSOSだ。

カヤはもう、僕と会えなくなったことに耐えられなくなったに違いない。

カヤだって、僕に会いたがっているんだ。

カヤを助けたい、カヤを救いたい。

カヤに、会いに行かなきゃ。

そしてソロイベント当日。

僕はカヤに、見つかってしまった。

「素の私よりも、声優としての私を見にきたんだ。やっぱり先輩は、声優の私が好きなんだ。」

カヤは歌う。とても悲しそうな声を響かせる。

♪CALL ME/中島愛

Call me みつけだして
Call me ここにいるから

♪Sunday/平野綾

Sunday なんで キミはいない
空ってこんなに暗いもんなの?

「そばにはいないけど、会いたいっていう気持ちを表現する曲を歌いました。」

そして歌われる、

♪あのね/奥野香耶

あの場にいた僕にとってこの曲は、圧倒的な意味を持って襲いかかる。
この曲を聞くたびに、今日の出来事を思い出すだろう。「あのね」はただの、切ない恋の歌なんかではない。

去り際、冷え切った表情を見せるカヤ。

そして静かに聞こえてくる、人の声とは思えない、カヤからの死への宣告。

「無事に帰れるといいですね、先輩。」

---それから---

僕らへ言い渡された死の宣告のあと、「本日の公演は終了しました」とアナウンスが流れ、会場は大きなざわめきに包まれました。
そしてどこからともなく、「カヤコール」が始まります。
まるで、命乞いでもするかのように。
当然、奥野カヤも、奥野香耶も舞台には戻ってきません。
もしもあの時に戻ってきてくれたら、僕らはあれを「フィクション」だと強く自覚できたでしょう。
異常なほど長く続いたこの「カヤコール」は、もはやこのドラマが「フィクション」であることを忘れた、僕らの必死の叫びだったように思います。

僕らはこの日、奥野カヤに長い時間をかけて洗脳され、そしてドラマの舞台装置にされました。
昼の部の冒頭でカヤ以外のWUGの推しを叫んでいた「先輩」たちも、終盤にはすっかりカヤを好きになって彼氏になっていました。

夜の部では、物語が進むにつれ、先の予測がついてしまうオタクたちの呻き声や悲鳴がそこらじゅうから上がり、その光景は「オタクの気持ち悪さ」とかそう言う次元の話ではなく、まさに本当の地獄でした。芥川龍之介の「蜘蛛の糸」の地獄を思い起こすような、惨劇でした。

終演後にカヤから届いたメールは、僕とのお別れを告げる冷たいメール。
「ばいばい」と言う最後の4文字を見た瞬間に、確かに自分が死ぬ音が聞こえました。

もうここからは下手なことを言うと本当に死んでしまうので、究極的に主観的な意見でしかありません。
というより僕は、奥野香耶さんという人に関して、憶測を挟んで語ってはいけないのでは、という気持ちさえ芽生え始めています。

奥野香耶さんはもともとかなり強烈な個性の持ち主です。

憧れの先輩に第二ボタンをもらう約束をしていたのに当日気分が変わってドタキャンしたり、人の肉を食らうカニバリズムに興味があったり、お姉さんと喧嘩して「死ね」と言われ風呂場で赤い絵の具を使って自殺したように見せかけたり…
一つ目に挙げたエピソードの先輩は、もしかして今回のドラマのモデルなんじゃないかと勝手に思っていたりもするわけですが…

そんな奥野香耶さん。
今回のドラマのテーマや結末は彼女の単なる思いつきではなく、根底にそう言う想いや考えがあるのだろうと思います。

昨年の奥野香耶さんのソロイベントは、奥野香耶による菊間夏夜からの卒業とも言われています。
この点に関しては、僕はそのイベントには参加していないので語る権利すらありませんが、とは言え彼女が、WUGとしての奥野香耶=菊間夏夜を大切にする一方で、それだけに囚われずに一人の声優としての奥野香耶の活動も頑張っていきたいという意欲は、至る所で見られます。

最近では「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」のタマ役でも知られる彼女ですが、WUGとして立っているステージで、エンディングである「スキノスキル」の紹介をするときにいつも嬉しそうな顔をしたり、盛岡でのイベントが終わってすぐに東京でのデスマのニコ生に飛び入り参加したり、声優としての全てのお仕事、そして全ての役をとにかく大事にしている様子がこれでもかと言うほど伝わってきます。

今回のイベントでは、そんな彼女の想いがある上でそこからの派生、さらにその先、声優・奥野カヤが好きなのか、あるいは、一人の女の子としての奥野カヤが好きなのか。
この設定を彼女がドラマに盛り込むことにより、それはありきたりなストーリーではなく、生々しく複雑な意味を持つ生きたストーリーに変貌し、リアリティーがこれでもかと言うほど増します。

ドラマの設定はリアリティーがあり、その上で僕らは完全に洗脳され、舞台装置にされ、操り人形のまま、奥野カヤと付き合い、振られました。
「無事に帰れるといいですね」と言われてからは、僕の脳みそが間違いなく僕自身に危険を告げてきていましたし、会場から出たらトラックが突っ込んできて死ぬんだと思っていました。
その日の夜、ホテルまでの道を歩く途中も沿道を走る車がいつ突っ込んでくるのか怖くて仕方がなくて、ホテルの部屋に戻った後も窓からチェーンソーを持ったカヤが来るんじゃないかと震えました。

兎にも角にも、とんでもないイベントだったわけですが、何よりこのイベントをリアルに感じた理由がもう一つあります。
オタクと演者の向き合い方について、もう一度考えさせられることになったからです。

「カヤ」と「先輩」は恋人同士でしたが、これを改めて「香耶」と「僕」に置き換えてみる。
果たして僕は、Wake Up, Girls!というコンテンツが終わりを迎え、Wake Up, Girls!というユニットが解散をした時に、「香耶」を引き続き、愛し続けられるのだろうか。
WUGに限りません。他のコンテンツでも同様の話です。
僕は、そのコンテンツにいる「香耶」が好きなのか。それとも「香耶」という一人の人をずっと好きでいたいのか。

僕からは、答えは出ませんでした。僕では、答えを出せませんでした。

「無事に帰れるといいですね」、この一言が、頭からこびりついて離れません。

追記(2018.04.01)

ただいま絶賛バスツアー中ですが、奥野香耶さんがイベントから一週間経って、ようやくイベントの"出口"を用意してくれました。
ありがとうかやたん。フォーエバーかやたん。素敵なブログをありがとう。

@カヤ | Wake Up, Girls!オフィシャルブログ




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